終身雇用の崩壊は本当か? ークビにはならない理由と社会の構造について人事経験者が解説ー

会社・仕事

「終身雇用が崩壊した」
「これからは個の時代」

こんな言葉が巷に溢れて久しいですね。

経団連会長やトヨタの会長も、終身雇用の維持は無理、
というような発言をしてニュースになっていたのもだいぶ前、
「今さら何を」という意見もあったりしますが、
実際のところ日本のビジネスパーソンの雇用環境はどのように変わっていくのでしょうか。

筆者は人事部に勤めるサラリーマンでございまして、
会社でもこのトレンドに乗って様々な施策が走っていたりするので
この界隈の視点は時たま考える機会があります。

その中で、どうも色々視点がごっちゃになって議論が巻き起こっているような気もしています。

今回は視点を分解しながら考えてみようということで
本記事を書いてみることにしました。

結論からいうと
「終身雇用が崩壊」したからといって、クビになりやすさが変わる訳ではない
と考えています。

アメリカのドラマに出てくるような
You are fired!! (お前はクビだ)
の世界は日本ではまだまだ遠い世界ということです。

しかし、年功的な仕組みは早晩変わっていくでしょう。

ガチで解説すると論文になるテーマなので、
法学部出身人事サラリーマンの視点で、
なるべく平易になるように書いてみました。

「終身雇用の崩壊」とは?

まず「終身雇用の崩壊」とは何を意味しているのか。

「終身雇用」が「崩壊」=なくなる、ということですが、
では「終身雇用」ってなんでしょう。

日本の正社員雇用の多くは、倒産などしない限り定年まで雇用するというものが一般的で、簡単に解雇されることのない雇用となっており、これを「終身雇用」と呼びます。

HR Review 「終身雇用とは? 歴史背景やメリット、デメリットについて解説」 https://bizreach.biz/media/19390/#_1-1

この「簡単に解雇されることのない雇用」が「崩壊」するということで、
終身雇用が崩壊することで、今後
正社員でも簡単に解雇されてしまいかねない状況になる
というようなイメージがあるようにも思います。

ですが、実はそうではございません、ということを解説していきます。

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「終身雇用」なんて制度は元々ありませんよ、というお話

「終身雇用」に法律的な裏付けはない

まず、法律に「終身雇用しなければいけない」
という規定があるわけではありません。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。

民法627条1項

というように、むしろ法律上は企業側も
「解雇自由」の原則というのが保障されているんです。

(もちろん育児・介護を理由にした解雇は禁止、
などありますが、労働契約における原理原則として。)

会社も従業員も、事前に申し入れれば解雇できるし退職できるというわけです。

※なので会社に退職を申し入れて拒否されたらそれは違法。さっさと逃げましょう。

ですが、企業側がこの解雇権を行使するには(行使が正当化されるには)
厳しい基準が確立されていて、こうした条件をきちんと満たした場合でないと
解雇は正当なものとして認められません

これが一般的に言われる「解雇規制」というものです。

※上記の引用にもある通り「雇用の期間を定めなかったとき」とあるので
正社員で雇用されていることが前提。

  • 人員削減の必要性
    人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
  • 解雇回避の努力
    配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
  • 人選の合理性
    整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
  • 解雇手続の妥当性
    労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと

(厚生労働省:「労働契約の終了に関するルール」)

法律では解雇できると定められているけれど、
実際にそれが正当であると認められるには高いハードルがあるということです。

ちなみに、これは法律の条文に書いてありません。

判例」といって裁判の実例の積み重ねです。
「前に似たケースでこう判断していたから、
今回もそれに倣って考えて判断しましょう」というものです。

これはのちほどまた解説します。

終身雇用は日本社会で形成された慣行

「法律でも決められていないのに、じゃあ終身雇用って何なの?」
という話になる訳ですが、端的に言うとこれは「慣行」=ならわしです。

「終身雇用の崩壊」というように
センセーショナルにニュースが報じられていたりするわけですが、
実態は平たく言うと「日本の雇用に関するならわし・文化は変わりますよ」ということ。

時代が変われば慣習も変わるよね、
という当たり前といえば当たり前の話。

元々、終身雇用などあってなかったようなものとも言えるわけです。

日本の雇用慣行

終身雇用は日本での雇用に関する慣習の1つに過ぎません。

「終身雇用」を「日本的な雇用慣行」という1段上の視点で見てみると、
何が変わって何が変わらないか、ということを整理しやすくなるかと思います。

筆者としては「終身雇用の崩壊」というよりは
「日本的な雇用慣行の変化」というのがより適切な表現なのではないか、と思うのです。

日本的な雇用慣行としては、
このような特徴で表現されることが多いです。

  • 終身雇用
    会社が倒産しない限り従業員を雇用し続ける
  • 年功序列
    毎年の定期昇給、勤続年数に応じて役職が上がっていく人事制度
  • 企業別労働組合
    企業毎に労働組合が組織されている(海外では業種単位で労働組合があったりする)

このうち、1つ目と3つ目は
法律や日本全体に根をはっているものなので、早晩に変わることは難しい。

一方、2つ目の年功序列の人事制度は会社内の制度に過ぎないので
会社内で制度を変えてしまえばそれで変わります。

ですので、まず少数の会社が年功序列の人事制度を変える
→次第に変える企業が増える
→いつの間にか大半が変えている

という流れになる可能性は十分にあります。

この辺りの3点、特に終身雇用と年功序列が色々と混じり合って
「終身雇用の崩壊」というワードが巷に溢れているのかなという印象をもっています。

これからどうなる?

終身雇用というのはもともと制度があったわけではない
ということは説明した通りですが、
とはいえ世間の風潮も変わってきているのは事実。

何が変わらないのか、何が変わるのか筆者なりの考えで整理してみます。

変わらないこと:突然クビになることは今後もまずないと思っていい

冒頭にも書いたとおり、
アメリカドラマみたいな”You are fired!!”の世界はまだ来ないと考えています。

なぜなら、解雇のハードルを決めているのは
判例の積み重ねで構築された法理(条文には記載されない原理原則)だからです。

先ほど書いた通り、法律上は会社は解雇することが認められています。
つまり、「法律を変えて解雇規制を緩和しよう」ということはかなり困難だということ。

そもそも「既に解雇の権利は法律に書いてあるよ。変えなくていいじゃん」
ということになるのでは、という見方です。

一方で、これまでの判例の積み重ねを覆して
「業績が悪かったら解雇するのは正当」
というように変えていくのは大変にハードルが高いです。

なぜなら、裁判では過去の判決を振り返り、
過去どのような考えがされていたのかということから逸れないように判断をするからです。

法律という前提が変わらない限りは「過去の延長線上で」判断するということ。

そして法律は変わることはないだろう、ということ。

おそらくこの判断軸は、
社会常識や社会通念が大きく変わって逆に「解雇しないとかけしからん」
くらいの考えが大多数になった上で、
解雇正当の判例が積み重なっていかないと変わらないと思います。

ということがあるため、
「解雇のされにくさ」は今後しばらくは変わらないと筆者は考えています。

何かやらかしたから、成果が出なかったから、
などを理由にクビになることは無いと思います。

(仮にあったとしても、争ったら勝てる)

もちろん会社が倒産寸前になった場合の整理解雇、
会社が倒産した場合はそうも言っていられませんので、
あくまで会社が経営できている状態において、というのは前提になります。

変わること:会社は解雇できないので、異動or辞めてもらうしかない

会社側としては鉄壁ともいえる解雇規制があるため、
倒産ギリギリのレベルにならない限りは解雇をしても無効とされるリスクがあります。

解雇は最終手段、配置転換などあらゆる手段を使って解雇を回避し、
それでもやむなしの場合は仕方がない、という理屈です。

コロナ禍で売上が大激減した航空会社が
社員をスーパーなどに出向させていたのも一例です。

そのため、企業が人員数の最適化を図って実施すると言われるのが

  • 希望退職
  • 追い出し部屋

などの施策で、皆さんもニュースなどで聞いたこともあるのではないでしょうか。

希望退職はその名の通り、
会社内で退職者を募って割増退職金などを支払う方法。

「希望」がある人の「募集」はしますが、
裏ではそれとなく応募するよう面談が持たれたりという話もあったりなかったり。

2つ目は、ほぼ仕事を与えずに会社にいづらくし
本人が自主退職を選ぶのを待つという、結構グレーな方法。

それほど多くはないながら、一定数あるのだとは思います。

こうした人員最適化の施策自体はそれほど新しいものではないですが、
最近は経営が傾く前、黒字状態でも人員最適化に動くケースはここ数年でも増加傾向。

(IT Mediaビジネス「2020年上場企業「早期・希望退職」実施が50社超 レオパレス21が1000人募集で最多」)

解雇はできないけれど他の方法で人員最適化を図っていきますよ、
というのは今後も増えていくでしょう。

経営のプライオリティも「雇用を守ることが第一」
から「経営を上手くやることが第一」にシフトしている
のだと思います。

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まとめ・展望

今回は終身雇用の崩壊、というワードについて解説してみました。

ざっくり「終身雇用の崩壊」とはいえ
解雇されやすくなるということはないのでは?というのが今回の趣旨です。

一方、現実問題として会社は今までの年功序列的な賃金形態で
ずっと従業員を抱えることはできませんから、
定期昇給がなくなったり少なくなったり、
会社内での業務のミスマッチが発生するということは起きる可能性はあります。

最終的には個人の人生の価値観ですが、
「終身雇用崩壊」の言葉の実態としては
「別に会社にしがみついて給料貰わなくても、
転職or独立して自分のやりたいことをやれば良くない?」という価値観が世間で広まってきた。

単にそれだけなのではないかな、とも思っています。

会社が終身雇用を守れなくなった、
というよりは社員側がそれを求めなくなった、
という側面も大きいのかもしれません。

かなり悲観的に論じられることが多い
「終身雇用の崩壊」もとい「日本的な雇用慣行の変化」ですが、
よっぽど今の会社に楽してぶら下がろうとする安定志向、
意思がない人以外にはそれほど影響はないのではないでしょうか。

個の力を磨いて、自分の人生歩んでいきましょう。(自戒)

それでは今回はこのへんで。Adiós!!

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